個展『道路』案内

道路はすごい。話はそこにつきる。

たとえば津軽の北端の、吹雪も怒濤も真横にすっとんでくる海際に、岩山をぶちぬいた素堀の隧道が今ものこっている。昔の人の、文字どおり岩をもうがつ根性の産物だ。あるいは、お茶の緑もうるわしい清水の山の天空に、空中ブランコみたいな高架道路が全容をみせはじめている。ああいうのは、もう未来世界の曲芸だ。とにかく昔のでも今のでも、いちいち胸がふるえる。

そしてその感動には、恐怖もまじっている。特殊な道路にかぎらない。孤独な山里につづく一本道だって、除雪作業でへしゃげたガードレールだって、意味はおなじだ。道路は、無益で無害な机上のお絵かきではない。道路は、ただの強烈な意志だ。ぐちゃぐちゃの敗戦国だった日本の、やけつくような願望を実現したのが、今の日本の道路だ。高温多湿の山岳国でしかも冬には豪雪地帯で、道路の敷設と維持というのは、おそろしいような大事業だ。