道路がない!

「被災地」を車で移動する時、こわいのは夜。死者の無念がひたひたとおしよせる。わかるよ、わかってるよ、くやしいよな、そうだよな、なんて心の中で返事しながら運転をつづける。ヘッドライトの光束の中に、土煙がゆらゆらただよう。突然、カーナビが女の声で案内する。
「次の信号を右方向です。」
でも、でも、信号なんてねえし!
「ファミリーマートが目印です。」
ふざけんなよ、コンビニもねえし!
そして、まがるべき道路そのものが、どこにもない。

膨張した海にのまれて死んだ人たちの無念に何もこたえることはできないし、今それでも苦闘をつづける人たちの力になることもできない。僕はただ誰かの復旧してくれた道路をあてにして被災地を車ではしる。そして世間でよくいうところの、自己責任とか、判断力とか、自由とかいうテーマが、あほらしい贅沢品におもえてくる。みんなの力で、やっと整備されてきた道路網と、これについての精密な情報が、きちんと用意されていて、はじめて僕は自由に判断して自分の責任で、あそびにいったり、撮影にでかけたりしている。僕の自力は無にひとしい。